久しぶりに好きなラーメン屋へ行った
バイクを走らせていると冷気が袖の隙間を切り裂くように撫でていく
穏やかでな外灯が柔らかいのか、不気味なのかよくわからない橙の灯りを道路に落としていた
本当に東京なのかと思うほど長閑で人気のない道
何年もこの道を使ってきたけれど、もうそろそろ通らなくなる
今年の間に東京らしい場所へ行く
雑多で混沌としていて、どこへ行っても人の気配から逃れられない場所へ
「ここも東京なのにね」
幼い頃から何度口にしたかわからない言葉
山より大きなものがなく、黙ると風に揺れる葉音と川のせせらぎが微かに聞こえる場所
ある程度は転々としたものの、私は長閑な場所でしか生きてこなかった
「ここも東京なのにね」なんて言えなくなる
広い川辺でココアを片手にタバコを吸うこともなくなる
山の中で桜吹雪に吹かれることも、きっともうない
そんなものなのかもしれない
否応もなく選択を迫られ、必死に生きている間に私は幼い頃から毛嫌いしていたところへ向かっている
現実は理想を殺す
生きるためには、糧を得るためには生温い理想や情操に鉄槌を下さなければならない
甘くない人生を生きるしかないのなら、何かを失うことに慣れるしかない
私はこんな風になりたかったのだろうか?