書評なんて大それたことは出来ないけれど、私なりの感想をここにまとめておきたい。
こういうものって、読んだ直後が一番良いものを書けたりするので。
タイトルの通りの漫画なのだけれど、その内容は哲学に近いものがある。
風俗で働く女性のお涙頂戴ものでは決してなく、濁流の中でもがいているうちに辿り着いた場所がそこだった、という感じ。
お涙頂戴ものは嫌いではないけれど、この本は落涙を許してくれるような余裕を与えてはくれない。
それがとても良いのだけれど。
例えば100m走を全力でしている時、力んで変な顔になっていたとか。
机に小指をぶつけて人前にもかかわらず、うずくまって痛がっているいる時とか。
幼い子供が親から人格否定をされている時に耐えている表情だとか。
そういうものに近い読後感。
必死な人間の懸命に生きる姿は涙を流す余裕すら与えてくれない。
それがどれほど悲壮感に包まれていても、切迫する状況や今まさに精神が摩耗している時は泣く余裕などないのだ。
そして、その嵐が過ぎ去った後、失ったものの数々に人は絶望し、しばらくの間呆然自失とする。
こんなはずではなかった、と思いながら失ったものをただ嘆くしかないのかもしれない。
私はアーティストの作った芸術をもちろん好んでいる。
そして、こうして社会人として生きながら煩悶と辛酸の海を必死で泳いでいるような人が作るものも好きだ。
アーティストたちはその燦然と輝く才能を顕現させ、世の人を感動させる素晴らしいものをたくさん作る。
それも素晴らしいと思う。
それと同時に、私が愛して已まないのは「生きるために必要な芸術」であり、この本はまさにそうした肉薄して来る何かがある。
普通ではないという烙印を押された人間が懸命に社会に、世界に取り残されないようにともがく姿を見た気がした。
それは一人だけ目隠しをしながらものを探すようなもので、目隠しをしていない人達から見ればただ滑稽で、不器用な人間のようにも映るのだろう。
きっと、私もそのように思われる人間の一人。
しかし、それでも生きるしかないのだ。
そうやって視覚を奪われた状態で、見つからないだろうと分かっていても探すしかない。
「普通」になれないと分かっていても、いつかきっと視覚が回復するはずなのだと信じるしかない。
個人的にもお付き合いがある人だから誉めているのではなく、私はとにかくこうした「生きるために必要な芸術」を作れる人が素晴らしいと思う。
私たちが、社会の中で生きる私たちのような淡く、脆い存在が生きるためにはこういう芸術が必要なのだ。
久しぶりに心が震えた。