美しい夕焼け空だった
生い茂る木の葉の隙間から覗く
夏らしく彩度が高く
橙と紅の混じる濃い色合いをしていた
この空の色
鮮やかな夕焼けの隅に深い紺が滲み始めている色味
この色には見覚えがある
小学四年生の頃だったように思う
団地の中にあるバスケットコートのフェンスに上り、ずっと夕日を見ていた時の色
日食があった
太陽を直接見ると目がつぶれる
だから、配られた黒いシート越しに見るようにと
そんな風に教室で教わった日だった
何も見たくない、これ以上
目がつぶれるのなら本望だと思い、私はその日に夕日が沈むまで太陽を眺めていた
9歳の頃、ヘレンケラーの伝記を読んだ時に視力や聴力がないことが不憫だと思うのと同時に羨ましくもあった
見えるからこそ、聞こえてしまうからこそ生まれる不幸がある
私の体はその頃から生を拒絶し続けていたのかもしれない
夕焼けが沈んだ後、私は自分の手のひらを眺め、ありありとその造形が視認できることに絶望をした
こんなはずじゃなかった
あれから四半世紀も経ち、私はまた夕焼けの下で手を眺めている
こんなはずではなかったと、心の中で呟くとジョギングコースにあるグラウンドから少年野球の声が響いた
バスケットコートで聞いていた同級生の声にも似ていた
9歳のあの頃から
壊れてしまったものを幾度も数え
手放したものを見ないふりをして
少しずつ腐食する精神に気づいているのに
目の前にある些事に追われていると自分に言い聞かせている