私は友人の全員をとても尊敬していて、それぞれが非常に異なる魅力を放っているように感じている。
そもそも友人の数自体が少ないし、私が変わり者なのも影響してか変わった感性を持っている人と仲良くなる事が多い。
私の友人の一人は「みんな、幸せになったらいいなって思います」と本気で言う。
私はその人が平坦な人生を歩んでこなかった事を知っている。
いわゆる「普通」の人や「普通の感覚」ではない事に深く悩み、芸術の世界で生きる道を模索しようとしている友人。
豊かな感性を持つ人間は往々にして、社会人になるまで辛い人生を歩まなければならない。
本人はそれほど苦労はしていないと言うけれど、話の内容を聞く限りそうとは思えない。
それなのに、それほどの苦労を重ねて来たのにどうして「みんな、幸せになったらいいなって思います」と言えるのだろうか。
こんなに綺麗な精神を持っている人がいるのだと分かるだけでも、気持ちが救われる。
これまでの人生の中で嫌になるほど人を恨み、争い、呪って来たような私とは雲泥の差があるその友人。
今になってその友人の境地が少しだけ分かるような気がするのだ。
私も実はここ数年でそのような境地になる事が多くなった。
やはり芸事ばかりの人間関係では人の神経は磨り減るばかりなのだ。
私はもう人の事を憎みたくないし、嫌いたくない。
争う事も嫌だし、もう誰かを恨んで生きるのは嫌なのだ。
そんな事はこれまでの人生で十分にやって来た。
争いはいくらでもしてきた。
勝つ事もあれば打ちのめされる事もあり、どちらであっても胸が空いた事など一度もない。
誰かと争ったとしても砂塵に帰した人間関係を茫然と眺めるだけで終わるしかない。
怒りは後悔を以て終わるしかないのだ。
これからは出来得る限り人を受け入れたい。
穏やかで、優しい人間でありたい。
幼い頃から願い続け、それでも手には入れる事の出来なかった穏やかで、寛容な心を持ちたい。
友人をきっかけにして、私も凪のような人間になりたい。