歳を取ることは下らないと思っていたけれど最近は穏やかに見る世界の相貌がどことなく心地良い
例えば泣き叫ぶことは歳を取ると少なくなる
体力も精神力も枯れて感情が分かりやすく表現されることが少ないから
喉の内を流れる涙があることに気付いたのは葬式で無表情になっている人を見たから
悲しくないはずがない
その人の心が全身から陽炎のように空気に溶けていた
彼は泣いてなんかいなかった
それでも誰よりも悲しそうで、喉の内には涙が流れていた
それが何かしら「本当のこと」を示しているようで私はただただ見つめるしかなかった
笑いながら怒り狂う人も、穏やかな雰囲気で自己憐憫を繰り返す人もいる
私はそうしたものも一つ一つに振り回されて27歳まで生きた
このままでは生きていけないと思ったのを記憶している