今日から久しぶりに小説を書き始めた。
今月しか時間がない私にとって、これからの時間はとても重要。
しかし、小説を書くのは何年ぶりだろうか。
二、三年ぶりかもしれない。
だから、最初はまだ小説を書くモードに入れないのだろうと思い込んでいたのだが、私の中身は何一つとして変わっていなかったらしい。
小説を書く人達は各々が準備体操のようなものを持っている。
タバコを吸ってその気になる人もいれば、ストレッチをする人もいる。
私は部屋を真っ暗にして3曲音楽を流すのが準備体操。
いくつか曲の候補があり、その日の気分によって変える。
しかし、共通しているのはピアノの音が入っている事。
どうしてなのか、私の琴線に触れるのはピアノの音なのだ。
一曲目はしっかりと自己陶酔するために流す。
今日の一曲目。
二曲目からが準備体操の本番。
今日の二曲目。
Emeli Sandé - Read All About It Pt. III (Live from Aberdeen)
背骨から背中を伝い方を通り、指へ熱が向かっていく。
ピアノの音が鳴るたびに、その勢いが強くなる。
寒気にも似た、何とも言えない弱い電流がピリピリと指へと向かい続ける。
手を思い切り握ると溜まった熱が今度は背骨へと返っていく。
手の平は汗ばみ、全身に熱が巡る。
大抵、その辺りで二曲目が終わる。
三曲目はほとんどの場合、鬼束ちひろのinfectionか月光、蛍のどれか。
今日はinfection。
ピアノの音が鳴るたびに腕や指が動く。
鬼束ちひろの声は私の心の奥底まで響きやすい。
眼を閉じて、その歌にだけ集中していると私の周りを弱い弱い静電気の渦がゆっくりと回っているように、皮膚に刺激を感じる。
この状態になればもう完全に小説モード。
四曲目を流してしまうと、今度は体内に溜まっている熱のようなものが暴走してしまう。
正気に戻るのに時間を掛けなければいけないほど混乱してしまうのだ。
なので、三曲目までにしておかなければいけない。
きっと三曲目と四曲目の間が、私にとっての精神と現実の境界。
そこを越えると理性は感性にのみ込まれてただひたすらに暴走する力に振り舞わされる。
まさか一日目でこの状態に入れるとは思っていなかったので、私はかなり驚いてしまった。
小説を書くというのも芸事のようなものなのだから、何年もブランクがあるとまずは体を慣らすのに時間がかかる。
そう思っていたのに、私は一日目で元の感覚を得られた。
つまり、ブランクはなかったのだ。
小説という形態ではなくとも、私は日々創作をしている。
結局のところ、私は文字を書く世界から離れるつもりなどないらしい。
いや、離れられないのかもしれない。
離れたくもないけれど。
文字を書く事だけが、私の精神に酸素を与えてくれる呼吸のようなもの。
これがなくなったら、体が生きていたとしても、私はもう死んでいる。
死んでいる事に気付かされてしまう、と言った方が正しそう。