来年からひっそりと占い師をやることになっている。
もちろん、本業は別にあるから副業になるけれど的中率が満足に上がったのでもう始めても良いくらい。
考えてみれば4年近くもやっているのだから当たらなかったら廃業した方が良いのだけれど。
名前を決めなさい、と言われた。
本名で占うのは良くないらしいけれど、私はスピリチュアルな事を信じないので本名でも良い。
しかし、本名にこだわりもないし、名前が一つ増えるくらいどうと言うこともない。
ペンネーム、ボランティアで使ってる名前、薬膳師の名前もあるし、本名だってそもそも養子になった時に変わった。
私を示す名詞がいくら変わっても、私自身に変化などない。
名前は蛍にしようと決めた。
鬼束ちひろから取ったとも言えるし、そもそも私は蛍が好きだからでもある。
蛍。
梅雨の時期、空気に灯る火の名前。
虚しく、暗い空蝉を微かに明るくする灯り。
明るくなったところで何も変わらない。
グロテスクに広がり続ける世の中も、そんな場所でしか生きられない私も、蛍の灯りで救われるはずなどない。
でも、束の間そうした底のない虚しさを忘れさせてくれる。
私が幼かった頃、毎年蛍を見るのが好きだった。
見た蛍の数を数えていたはずなのに、いつもその灯りに見惚れて数を忘れていた。
あの時の感覚。
毎日に充満する痛みと嘆きを忘れさせてくれた灯り。
あんな風になりたいものだけれど。
そんな高尚な願いなど、どうせすぐ挫折に遭ってがらくたになる。
だから、一番好きな蛍は止めて蛍雪にしよう。
好きなものにかすっているくらいが、私にはちょうど良いのだ。