彼女のためにクリスマスプレゼントを買って、あとは渡すだけになった。
渡すのを楽しみにしていると、昔の事を思い出した。
あれは小学3年生の父の日だったと思う。
母親に金を持たされ、ネクタイとネクタイピンを買ってこいと言われた。
私は兄二人と一緒に町へ出て、ネクタイを買いに行ったけれど、それが本当に嫌だった。
プレゼントを渡したくない相手のために何かするなんて、時間が無駄だと思ったし、仲良し家族ごっこに我慢ならなかった。
母親は常に父がいかに最低な人間なのかを私たちに話していた。
今思うと誇張もあったけれど、確かに最低な振る舞い方をしていたし、酒乱がいる家は地獄絵図だと今でも思う。
そんな男のためにプレゼントを買うのが、本当に嫌だった。
こんなことを考えてしまうのは、今『言の葉の庭』という映画を見たからかもしれない。
映画の中で『27才の私は15才の頃と何も変わらないまま、ずっと同じ場所にいる』というセリフがあり、それがきっかけで思い出したのだ。
29才の私は9才の頃と変わらない部分があり、今でもその記憶に苛まれているのだ。
小学生の頃、30才と言えば充分過ぎる大人で、何があっても悩んだり苦しむものではないと思っていた。
たぶん、私は今の彼女と結婚するだろうけれど、実はまだ結婚生活に自信がない。
私の中にある家族像は狂っている。
距離があるから他人には隠せているけれど、私の傍にいればいつかは気付かれてしまうだろう。
生育歴については話してあるけれど、私の狂った人生に彼女を巻き込んで良いものなのかどうか、今でも迷っている。
私に子供ができて父の日にプレゼントをされたら、私は無表情になると思う。
嬉しくなさそうな私の顔を見て、子供を傷付けてしまうかもしれない。
疲れているから、こんなことを思うのかもしれない。